川崎哲のブログ(2006.7〜2018.3)

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zoom RSS 安保法制で「抑止力が高まる」という嘘について

<<   作成日時 : 2015/06/09 18:58   >>

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 安保法制により「抑止力が高まり日本はより戦争に巻き込まれなくる。攻撃を受けなくなる」という主張がある。安倍首相らが記者会見等で繰り返してきたフレーズだ。でもこれには何の根拠もない。虚偽と言ってよい。なぜか。

 「抑止力」とは、(Aが)攻撃すれば相手(=B)がとてつもない反撃をしてくることが予想されるがゆえに、(AがBに対する)攻撃を思いとどまる、という軍事理論である。すなわち、Bが「とてつもない反撃」をすることが想定されている。
 では日本は、攻撃された場合「とてつもない反撃」をするのか。否。日本は、自衛権を発動し武力行使する場合も、それは「必要最小限度」に限られる。自衛権の発動に関する三要件がそのように定めている。集団的自衛権の発動を認めた新三要件においても、それは不変とされている。昨年7月の閣議決定にあたっても、武力行使は「必要最小限度」という定めについては、政府与党によってまったく争われていない。つまり日本は、個別的自衛権の発動であろうが、(新たに設けられようとしている)”存立危機事態”における集団的自衛権の発動であろうが、行使する武力は「必要最小限度」となる。ということは、"敵"に対する「とてつもない反撃」は行わない。
 日本の武力行使は自衛のための必要最小限度に留まるから、相手が「とてつもない反撃が予想されるから、思いとどまろう」ということにはならない。相手が「とてつもない反撃」を予想し怯えるのは、むしろ米国による攻撃(反撃)である。つまり抑止力の源は、自衛隊にではなく米軍にある。

 では、このたびの安保法制と、それとセットになった日米防衛協力の新指針(新ガイドライン)において、米国が日本のために発動する軍事的攻撃力は、何らかの形で強化されたであろうか。その答えは、意外にも否である。
 日米新ガイドラインを注意深く読むと、尖閣諸島等を想定した「島嶼防衛」において、米軍が攻撃力を投入して日本を支援するというような表現は(97年の旧ガイドラインに比して)むしろ削られている。(岩波書店「世界」7月号に掲載の集団的自衛権問題研究会の論文をご参照。)
 つまりこの間、米国は、日本に対する脅威に対して米国が発動するであろう軍事的攻撃力を強化するとは、一度も言っていない。そんな約束はしていないのである。
 日本は必要最小限度しか反撃しないし、米国は攻撃力投入を強化するとは言っていないから(むしろ表現は抑制的になっている)、「抑止力が高まる」という主張に合理的な根拠はない。

 (なお、これに対して、日本は「必要最小限度」の武力を超えて、「戦争を戦って勝利する」というレベルの武力を保有し行使できるようになるべきだ、という主張が一部にあるかもしれない。つまり日本自らが強力な抑止力を持つべしという主張である。これについては、主張するのは自由であるが、私としては「そのような発想は道徳上誤っているのみならず、実際上も空想に過ぎない」とだけコメントしておく。)

 一方、「紛争が未然に防止される」という主張はどうであろうか。この間の安倍首相の安保政策に対して中国がどう反応しているかは明らかだ。中国の最近の国防白書では「戦後体制の転換」を掲げる日本の安倍政権の姿勢に対する反発がみてとれる。今の日本姿勢は中国の軍拡を誘発している。
 思い起こしてみれば、かつて政府は"周辺事態"などに関連して「抑止と対話」といってきた。今は政府は「対話」についてまったく触れない。「抑止」一本だ。
 日本の安保政策転換は中国の強硬姿勢を招いており、結果として領土問題等における軍事緊張は高まっている。警戒活動中の偶発的な衝突や、両政府が共に煽るナショナリズムに浮かれた民間の暴力行為による不測の事態が起きないとは限らない。
 そのような日中間の緊張状態の高まりに対して、米国の軍事的抑止力が何ら強化されたわけではない。
 よって、この新ガイドラインと安保法制によって東アジアの武力紛争の危険は高まりこそすれ抑制されはしないと結論づけることが、合理的である。(合理的な反論のある方はどうぞ。お待ちしています。)

 例えば「尖閣諸島の平和的な実効支配を確実に続ける(現状維持)」ことが日本としての政策目標であるとしよう。その目標達成のために、「米軍と一緒になって南シナ海で警戒活動に参加する」ことが何かプラスになるのか? かえって中国側の反発と硬化を招くだけでないのか。
 今回の安保法制を通じて、日本は今後、米国の対テロ戦争のために戦闘地域にへも自衛隊を派遣できるようになる。それとひきかえに、米国が提供する「抑止力が高まり」、日本は「より攻撃を受けにくくなる」というのが政府の理屈のようだが、上にみたように、その主張には根拠がない。米国だって、中国と安定的な関係を維持したいはずだ。尖閣諸島をめぐって米国が日本のために発動する武力を強化するなどと表明するとはとうてい思えないし、実際そのような表明はしていない。結局残されたことは、日本が米国の求めに応じて、中東なり南沙諸島なり、自衛隊を派遣していくということだ。それがもたらす結末について、政府や国会議員など意志決定権を握る人たちが、ほとんどまともに向き合おうとしていない。

 南沙諸島で領有権を中国と直接争っているフィリピンやベトナムは、たしかに日本の軍事的な役割に一定の期待をしているかもしれない。しかしそれはASEAN諸国の総意ではない。シンガポールなどは「米側か中側のどちらかにつくことはしない」という姿勢だ。知恵者というべきである。仮に南沙諸島で何らかの軍事的衝突があれば、地域のすべての国が大変な被害を受ける。軍事的な意味だけではない、政治的にも、経済的にもだ。

 領土問題に対しては、冷静で中立的な国を仲介者として、平和的な「兵力切り離し」を図っていくしかあるまい。「同盟だ、同盟だ」と声高に言っていくのは「片側につく」という意味である。問題の安定化や解決につながるとは思えない。実際問題、今の安倍政権の外交・安保政策によって、中国が尖閣問題で日本に対する強硬姿勢を抑制するようになると考えることは合理的でない。領土問題をめぐる緊張と危険は、むしろ高まるだろう。政府は、いったい何をしたいのか。

 より根本的にいえば、世界的なパワーシフトがすすみ、米国の軍事的覇権が弱まり中国の台頭が明らかな国際バランスの中において、「日米同盟の強化」ばかりを念じて中国との対話の窓すら自ら閉ざすような外交姿勢をとることは、日本の安全保障のための政策オプションを自ら狭める愚かな行為だ。このことについては、機会を改めて論じたい。

2015.6.9
川崎哲
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内 容 ニックネーム/日時
結局, 中国がどういう国であるか認識の違いである. 日本はアメリカと組むのがいいか中国と組むのがいいか. そんな話をすれば, それがいけない. 中国とも話をすべきだというかもしれないが, もし我が日本が共産圏で一党独裁的な国家ならそれも良いかもしれない.
しかし, 我が日本は先の大戦で先人が共産圏から守ったように戦前から続く民主主義の資本主義国家である. マルクス主義でなく, この形が最も人間の現実に合った理想的な国家の形であることは歴史が証明している.
中国の現代史を顧みて, 一番恐れているのは天安門事件の再来である. これを最も恐れているのだ. そのために中国は何をしたか. 徹底的に国民に愛国主義を植え付けていった. これがたまたま反日に結びついただけで, 元々中国政府は反日が目的ではなかったが, 日本の弱腰な対応や, 国民感情などと合わさって有効な手段ということを知ってしまい止められなくなった.
つまり, 日本は中国が民主化され反対意見も通り, 日本と同じような価値観であれば話し合うことも可能だが, 現在の中国の体制はまったく日本と価値観が合わない体制であり, 表面上は話し合えるかもしれないが, わかり合うことは不可能だ.
価値観の合わない男女に夫婦になれと言っても無理なのと同様, 日本と中国は国防などの非常に大事な問題を話しあい, 解りあうことが出来るわけがない. 現に中国の一部の勢力は冲縄を獲りに行くと言っているではないか. こんな国家とまともま話ができると思うほうがおかしい. もし, それでも中国と国防関係を話し合えと言うのであれば中国を民主化するか日本を独裁共産圏国家にするしかない.
あなたも現に日本人でさえ価値観の全く合わない方がいるでしょう. そういう人を残らず論破し説得できるくらいになってから中国と話し合えと発言すべきだ.
中国について
2015/07/25 11:43
都合よい結果並べてその状態に回答してそれが全ての様に見せてるだけ、この人が否定する論法を同じ論法で否定してるだけ

虚しい
2018/12/09 16:46

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