なぜICANは日本に核兵器禁止条約への参加を強く求めるのか

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 なぜICANは核保有国よりも非核保有国である日本に核兵器禁止条約への参加を強く求めているのかとの疑問が上がっています。このことについて、ツイッター上で述べたことをここにまとめます。皆さんに考えていただきたいと思います。まず、ICANはノーベル平和賞受賞講演で9つの核保有国を名指しして強く批判していることを指摘しておきます。その上で、核の傘下にある国々を「共犯者」として批判しています。

 そもそも昨年の核兵器禁止条約は、保有国がすぐに入らなくても、圧倒的多数の非保有国が核兵器の法的禁止にコミットすることで、核兵器を悪とする国際法規範を強めようという観点から作られたものです。地雷やクラスター弾の禁止条約と同じ手法です。まずは非保有国が保有国を包囲する規範を作るということです。

 核保有国がすぐには禁止条約に入らなくても、政治的、経済的、社会的圧力を受けます。核兵器の使用は戦争犯罪とみなされ、核兵器の製造に融資することは人道法違反とみなされるようになります。こうした「圧力」効果については、昨年11月の国連軍縮広島会議での報告をご参照ください。

 核保有国は自らが禁止条約に入らなくても、圧倒的多数に包囲されることによって事実上拘束されます。条約のそのような力については岩波ブックレット『核兵器を禁止する』で詳述している通りです。保有国は、いやなら入らなければいいだけなのに、禁止条約に怒り反発しています。圧力が効いている証拠です。

 核兵器はいかなる者に手にあれ悪である。このような規範を強力に確立するためには、核兵器禁止条約になるべく多くの国が参加する必要があります。非核国120カ国超は既に賛成表明しています。問題となるのは、自らは核は持たないが米国の核兵器に依存する、いわゆる核の傘下国(約30カ国)の態度です。

 核の傘下国が、核兵器を違法とする圧倒的多数の非核国の側に立つのか。それとも核保有国の側に立ち「核保有の正当性」を主張し続けるのか。核保有の正当性を主張し続ける国がある限り、北朝鮮のように「では我々の手にも」という国は登場し続け、核拡散は止まりません。

 とりわけ日本は広島・長崎で核兵器の惨害と非人道性を身をもって体験した国です。その日本が「核保有の正当性」を主張する側に立つのか、それとも、核兵器を非人道兵器として禁止し廃絶する運動の先頭に立つのか。日本の姿勢は世界に大きな影響力を持ちます。ベアトリス・フィンがこのたびの来日講演で語ったのはそのことです。

 ここで、日本がこれまで核軍縮に熱心で、米国や核保有国に厳しく軍縮を迫ってきた実績があるというのなら「日本よりも先に米国に言うべきだ」という主張も成り立つでしょう。しかし残念ながら日本は核軍縮のリーダーとはとても言えません。日本主導の国連決議が今年賛成票を大幅に減らしたことは象徴的です。

 日本は世界の核軍縮の足を引っ張ってきたとさえ言えます。こういうと国内では、驚かれたり、批判を受けたりします。しかしそれは本当です。私は20年間、国際的にこの仕事をしてきましたが、日本政府が米国が核の先制不使用を提案しようとするとそれに反対したりなど、核軍縮の足を引っ張ってきたことは国際的に公知の事実です。

 米オバマ政権が核軍縮を進めたいと考えてきたとき、日本が「それでは不安だ。核を維持してくれ」といってストップをかける動きをしてきた事例は枚挙にいとまがありません。(私がこう言うと、慌てて非難の声を上げる人たちがいますが、これもやはり岩波ブックレット『核兵器を禁止する』をご参照ください。)

 米国に核軍縮をあまり性急に進めないでくれと言っている同盟国は日本だけではありません。韓国や東欧諸国もです。これらの国々が「安全保障のためには核兵器がまだまだ必要だ」といっています。核の傘にすがるこれらの国々の政策を転換させないことには、核兵器を違法化する国際規範も、米国の核軍縮も進みません。

 だからこそ日本が「核の傘」の政策を転換することは世界的なインパクトがあります。だからICANは今、核保有国に直接働きかけることより、日本やNATO諸国などに働きかけその政策転換を迫ることを重視しているのです。そのことが、核保有国の政策転換にも長期的につながるからです。さて日本はどうするのか。

 「核」抑止力がなければ日本の安全が保たれないという議論には合理的根拠がありません。「核」以外の抑止力があります。一つは通常兵器による抑止力、もう一つは非軍事的な抑止力すなわち経済的・社会的相互依存を高めることでの戦争予防です。私自身は平和運動家だから前者より後者が好きですが、前者も重要です。

 じっさい核兵器ほど使いづらい兵器はなく、かつ使ってしまったら自国も破滅することが明らかな自殺的兵器なのだから、そんなものに依拠して国の安全を考えるというのは合理性を欠きます。日米同盟を維持したまま核兵器禁止条約に加入することは可能であって、核以外の兵力での協力と抑止を考えればよいのです。

 以上のようなことがICANの主張です。ICANが日本政府を強く批判したという点のみを取りだしてそれを非難する声があるので、以上のように論点を整理しました。さらに日本と北東アジアの関係でいうと、以下のような論点があります。

 北朝鮮の核の脅威があるから日本は核兵器禁止条約に入れないという声も強いです。ならば北朝鮮、韓国、日本の3カ国が禁止条約に同時加入するという目標を立て、そこに向け長期的な外交を重ねていけばどうでしょうか。北朝鮮が同条約に入った場合の検証制度を今から作っておくことは日本の安全保障上の実利もあります。

 法的にいった場合、日本が依存する「核抑止」は「核の使用の威嚇」にあたるかが問題になります。あたるなら日本は核兵器禁止条約には入れません。が、武力による威嚇を禁止した憲法9条1項に反することになります。もし日本がいう「核抑止」が「威嚇」にあたらないなら、日本は禁止条約に入れることになります。これらについて、法律家や政治家の議論を期待したいと思います。

2018.1.20
川崎哲


ご関心のある方は、講演や出演の情報が出ているこちらの投稿をご覧ください。

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